あんぱんを投げていた。(日記)
生活リズムが崩壊しているので寝付けないまま夜中の3時になったところで甘い物が食べたくなり、財布だけ持ってサンダルでコンビニへ向かった。
深夜のコンビニはとても好きだ。
他の客もパジャマのような格好でくるから見た目に気を遣わなくていいし、何よりも目の死んだ深夜のコンビニ店員が見られる。
あと深夜のコンビニ店員はレシートを渡してこない(ことが多い)。
コンビニでグミとあんぱんを買った。
購入したあんぱんは小袋に入った小さいあんぱんが10個程度袋に入ったもので、1つ1つ頬張りながら家に向かい、最後の1つを食べようとしたところである衝動に駆られた。
「あんぱんを空に投げてキャッチしたい」
こんな欲求を抱いたことは過去に1度もなかったけれど物は試しと、とりあえず近所の公園に行ってあんぱんを投げることにした。
公園に着いても誰もいなかった。
地元なら大体深夜の公園にはヤンキーか野球少年が居たから少し意外だった。
あんぱんを空に向かって投げる。
辺りは暗くてあんぱんは投げられた途端闇に包まれ見えなくなった。
月明かりに一瞬だけ宙を舞うあんぱんが照らされた。
が、その情報量だけであんぱんの落下地点を予測してキャッチするのは僕には無理だった。
あんぱんを投げて落ちてくるまでおよそ1.5秒といったところだろうか。
人間はほんの少し先の未来さえ見えないんだなと改めて実感させられた。
案外これは面白いなと思った。
あんぱんをキャッチするまで家に帰らないという目標をたてる。
空に投げたあんぱんをキャッチするのは難しい。
完全にあんぱんの行方を見失うとどこからあんぱんが降ってくるのか分からず落下してくるあんぱんに怯えながら防御の姿勢を取ることしかできなかった。
あんぱんにさえ怖気付く自分の無力さに胸が痛くなった。
一度、コントロールを間違えてあんぱんをかなり遠くに投げてしまった。
あんぱんを見失い、落下音がした付近を手探りで探していると丁度通りかかった一人の男の人に声をかけられた。
「何か探しものですか?」
はい、あんぱんがどこかにいっちゃって。
「あんぱん?食べ物の?」
はい、食べ物の、小さいあんぱんです。
男性がスマホのライトで地面を照らすとあんぱんは呆気なく見つかった。
「あ、これですかね」
おお、それです。ありがとうございます。
「こんな時間に何してるんですか?」
あんぱんを投げて遊んでました。
「…?なるほど、とりあえず見つかって良かったです。」
恥ずかしさのあまり、消えてしまいたかった。
しかしあんぱんをキャッチするまでは帰れないのでさっさと終わらせようと決心した。
それからチャレンジの成功まで、あまり時間はかからなかった。
僅かな達成感を抱きつつ、数十回の落下でボロボロになったあんぱんを口に入れて帰った。
せっかく風呂に入ったのに、足が公園の土で汚れて最悪だった。
友達は、家族は、深夜のコンビニ客は、今日何をして過ごしたんだろう。
僕はただ、あんぱんを投げていました。