深夜徘徊

楽しいキャンパスライフを思い描いて必死の思いで受験戦争を勝ち進み大学に入ったが、大学に入っても友達ができず誰とも話さない孤独な生活が続いて色々限界になった俺は気がついたらまた深夜徘徊をしていた。深夜徘徊をする時はそこらに歩いている野良猫を脅かしたり花壇に植えてある花の茎を結んだりマンションにとめてある自転車のサドルを勝手に付け替えたりしている。別にこれらの行為は最近始めたわけではなく、高校生の頃から時々やっていた。言うなれば俺の趣味は悪趣味なのだ。

そんな時、俺が歩いている前方から「いかにも大学生」な集団が陽気に大声で歌を歌いながら歩いていた。おそらく近所のカラオケ屋 こまいぬ の帰りなんだろう。

すると3時頃に俺がツイートしてから止まっていたTwitterのタイムラインに「夜中に歌う大学生うるさすぎ氏ね」というツイートが流れてきた。この人もこの辺に住んでいたのか。ツイートに♡を押して「僕も聞きました!ほんとうるさいですよね!ありえない!」とリプライを送ろうとしたところで手を止めた。

 

これだ。

俺の頭に一つのアイデアが浮かんだ。

 

翌日、また深夜の学生街へ繰り出した俺は弊学 風呂島大学 の学生が多く住んでいそうな生協のマンションの前へ行き大声で渾身のリンダリンダを披露した。

最初のサビを歌い終わってすぐ俺は現場を離れる。

Twitterを開くと俺が望んだとおりにその一件がフォロワーの風呂大生によってツイートされていた。「外にリンダリンダを歌ってるやばいやつがいる」だそうだ。誰のことだろう。俺のことだ。この事実を俺しか知らないだなんてなんと気持ちがいいのだろうか。ニュートン万有引力を発見した時もこんな気持ちだったに違いない。

 

それから俺はほぼ毎晩外を出歩いては叫んだ。毎回歌うだけじゃ芸がないから「まじ!?やばくね!?!?」と架空の会話への驚きを表したり、「やばいって!!まじやばい!!!やばいってこれ!!!なんなん!!!!やばいよやばいよ!!!!はんぱないって!!!」と手河鉄朗と一時期ネットで話題になった高校サッカー選手権大会の選手を混ぜたようなセリフを発したり、時には声色を変えて「あたおかとぉ!タピオカはぁ!ぴえんでぇ!!えぐいてぇ!!!」と無理に若者言葉を取り入れようとした狂ったキンハチ先生を演じてみたりした。

俺のパフォーマンスは反響を呼び、次第に俺の声を聞いたというツイートは増えていった。「例の騒音大学生の声聞きたいから夜更かしするわw」というツイートさえ見られる。もはや風呂大生のタイムラインは俺の話で持ち切りで、とても気分がよかった。もはや深夜の俺の叫びは迷惑なものではなくなって風呂大生はみんな俺の叫び声を聞きたがっている。

 

叫べば叫ぶほど風呂大生の反応は大きくなる。自転車に乗りながら叫んでいるところを飲み会帰りの男子大学生のグループに見られてしまったが彼らは噂の人物に出会えたことを喜び一緒に騒いだ。大学に入って初めて友達ができてうれしかった。

俺は彼らにもっと喜んでもらおうと、クリスマスソングを叫びながらコンビニで買った卵をそこらのアパートに投げつける。

「ウィーウィッシュア メリクリスマス」ペチャ

「ウィーウィッシュア メリクリスマス」ペチャ

「ウィーウィッシュア メリクリスマス」ペチャ

「アンドァハッピーニューイヤー」ペチャペチャ

 

友達は喜ばなかった。「どうしてそんなことをするんだ」「俺らはもうついていけない」「捕まっても知らないからな」とまで言われた。

 

こいつらは何を言っているんだ。

最初から俺は悪趣味だと言っていただろう。